予想外のICU入室からシトリン欠損症診断 

予想外のICU入室からシトリン欠損症診断 

ジョー ファン & レベッカ 

初期症状 

私たちの息子は2570gで生まれ正期産でした出産前に医師より「赤ちゃんが小さすぎるようなので自然分娩は危険かもしれない」と帝王切開を勧められ、帝王切開での出産でした。出生後数週間は黄疸がひどく、生後1週間で2回光線療法を行いました。母乳をうまく飲むことができなく早い時期から搾乳と哺乳瓶での授乳が必要でした。また、授乳のたびにガスがたまり、吐き戻しもありました。しかし第一子だったこともあり、この程度のゲップや吐き戻しはよくあることだと思っていました。 

診断への経緯  

9週目頃から息子は授乳の後に奇声を発するようになり、近所の小児科医にかかる事にしましたがここでは心配ないと言われました。念のためセカンドオピニオンとして小児科医のつてを当たった所、すぐにマラヤ大学医療センター(UMMC)の小児科救急室に入院するよう助言をうけました。UMMCの医師は奇声ではなく、生後9週目になっても黄疸が強い(遷延性黄疸)ことや肝臓肥大や体重増加不良成長障害に懸念を示しました。これらは深刻な赤信号であり、即入院し超音波検査を受ける必要があるということでしたここからすべてが動き出したのです。 

それから2日間、息子は小児肝臓専門医、内分泌専門医、耳鼻咽喉科専門医、外科専門医のチームによって、超音波検査、X線検査、血液検査などの検査を受けました。これらの検査は肝機能を検査し胆道閉鎖症を否定するために行われました。私たちはただの「奇声」であるはずがここまでおおごととなり驚きました。息子は検査中泣き叫び医療従事者の皆さんには多大な迷惑をかけてしまったと思います。検査の結果95%の確率で胆道閉鎖症は否定されましたが不確定要素は残るということで外科的な評価(葛西手術)を行うことを提案されました。私たちは、その不確定要素のために生後2ヶ月の乳児に手術を受けさせることに抵抗はありましたが結局は48時間以内の緊急手術を受け入れました 

病院では流行病に関する規制があったため、自宅療養しようとその週末は一時退院しましたが息子は全体的に具合が良くなく疲れている様子で寝てばかりいました。病院での負担が大きかったのだと思っていましたが、そんな矢先、退院後24時間も経たないうちにUMMCの小児遺伝学部門から連絡を受けました。退院前日にうけた血液検査の結果、血中アンモニアの数値が非常に高い、というのです。同時に、「異常に疲れていないか」とまさにその通りの質問もされました。そして遺伝子疾患の可能性が大きい為すぐに病院へ戻り、遺伝病棟に入院し検査するよう指示を受けました。 

その夜血中アンモニアが一気に上昇し当時担当していたUMMC遺伝学チームのテー先生がこれは危機的状況ですぐにICUに入れる必要があると判断しました。私たち親は混乱し、打ちひしがれましたが全てお任せする事にしました。 

最初の68時間は小さな体に点滴を入れるのに苦労したようですが3晩ICUでアンモニア点滴と輸血を受けることとなりました。医師にはどんな結果も受け入れられるよう心の準備をお願いします、と言われ、今思い出しても私の人生で最悪の3日間でした。神への祈りと医師団による必死の治療の結果、3日目にはアンモニアの点滴によく反応し、もし乳糖フリーミルクが効けば一般病棟へ移ることができると言われ、事なきを得ました。 

この病院で小児遺伝学で著名なトン教授に出会ったことは大きな出来事でした息子の症例を担当してくれたトン教授のチームには私たちへの連絡からICUのモニタリングまで一手に引き受けていただきました教授は後日、この週末は息子のせいで病院が一挙に忙しくなってしまった、と冗談交じりに話してくれました。そして血液検査の結果や前夜の行動パターンを見るとこの症状はシトリン欠損症によるNICCDであるということ、また哺乳の状態として吐き戻しが多いことやうまく飲めていないことが更にNICCDであるという裏付けをすることを説明してくれました。そしてシトルリン血症II型(シトリン欠損症についてや唯一の治療法は食事をコントロールしながら乳糖除去MCT強化ミルクを哺乳する事である、と説明してくれました。また多くのシトリン患者を診ているが、息子も他の子どもと同じように成長できる、と教えてくれました。 

4日目、息子の血中アンモニア濃度は安定し、乳糖除去ミルクにもよく反応することがわかり一般病棟に移り数日様子を見た後、シトリン欠損症の経験もある管理栄養士が処方した全く新しい食事療法をいただき、遂に帰宅する許可を得ました。 

これが息子がシトリン欠損症の診断までの道のりでした。 

長文で申し訳ないのですが、このケースでお分かりのように私たち親はほんの些細なことがここまでになるとは夢にも思いませんでした。2日前に少し奇声を発した、ということだけだったのです。もし私たちが救急に行かず、またはUMMCの素晴らしい小児科医が他の疾患の可能性も疑ってくれなければ息子が危篤状態だということも知る由はなかったと思います。まさに生きるか死ぬかの瀬戸際だったと思います。もしお子さんが同じような症状があるならば親御さんには是非この私たちの話をネット検索でみつけ、読んでいただき、先天性代謝異常またはシトリン欠損症の有無を病院で調べてもらうことが非常に重要だと思います。なぜならこの疾患はその稀さ故に医師が最初に疑うことではないためです。 

シトリン欠損症の診断がついてから現在まで 

3か月~1歳 

退院後の大きな変化としてはすぐに母乳をやめ、栄養士の監督のもとMCTオイルを補強したAlimentum®ミルクの哺乳をスタートしたことです。離乳食が始まると栄養士の管理の元食事の摂取量に応じてミルクの量の調整し、栄養組成をしっかり管理し、NICCD期の間はタンパク質、炭水化物、MCTオイルの割合をうまく保つようにしました。この頃はアンモニア値のモニターと栄養相談を受けるために最初の3か月は毎月外来受診をし、その後は3か月に一度のペースで受診しました 

この食事療法を始めてから数カ月で息子のゲップの頻度は劇的に少なくなり、吐き戻しもすぐに止まりました。息子の体は摂取したものをすべて吸収しようと懸命になったかのように体重も身長も急速にのびるようになりました。また月齢的な成長にも追いつき、とても活発で賢い小さな赤ちゃんになったのです。 

1歳~現在(2歳4か月) 
1歳のお誕生日を過ぎた頃NICCD期も終了し、主食も普通食に移行しました。ミルクも1歳半以降は、Alimentum®ミルクからNutren® Juniorミルクに移行し、MCTオイルを補強したミルクを夜間に与えています。状態が安定したので外来も半年に1回に減りました。 

他の幼児と同じように13ヶ月目くらいから歩き始め、それ以来順調に成長しています。電車とロケットが大好きで、毎日Cocomelon Blippi(注:子供向けYouTubeチャンネル)を楽しみ、プレイスクールの子ども用ジムで友達と延々に走っています。 

2歳になる頃には、体重が平均のラインに乗りました。これは今までの経緯を考えると大変大きな成果であり、小さかった息子が素晴らしい少年に成長するのを見守れるという事は非常にありがたい事だと感じます。UMMC病院の鋭敏な医師がいなければそんなこともできなかったであろうと思います。 

今までの経験から学んだこと 

食の好み 

息子の毎日の主食は主にお粥(または白米)、MCTオイル添加鶏肉(または同量の他のタンパク質源)です。食間のおやつも大好きで、よりヘルシーなCerelac(注:Nestlé社の幼児用シリアル)や幼児用ライスビスケット、時にはプリングルスやCorntos(注:スナック菓子)のようなあまりヘルシーではない一般的なスナックも食べます。水も2歳児にしては十分な量を飲みます。 

シトリン欠損症の症状なのか炭水化物の量に上限がある様で、昼食に米をたくさん食べた時は夕食ではあまり好まない、ということに気づきました。 

好物はナシレマン・アヤムゴレン(鶏の唐揚げ入りココナッツご飯)で、サンバル(エビの唐辛子ペースト)も平気で食べます。 

食に関するチャレンジ 

食べないものに関して、それは好き嫌いなのかシトリン欠損症による体質からきているのかわかりづらい事が難点です。その日にもよります。空腹の時、または食事の量が少ないときは機嫌が悪くなりよく怒りを爆発させるので、必要な栄養を毎回きちんと摂取しなければならないとなおさら感じます。 

病気にかかるとき 

風邪をひくと回復に時間がかかります。薬を飲んでも鼻水が止まるまで2週間ほどかかります。 

財団に期待すること 

私たちはシトリン欠損症のお子さんを持つ他の親御さんたちとつながり、特に経験豊富な方たちから食事面や子供の成長について色々学びたいと思っています。また最近シトリン欠損症と診断されたお子さんを持つ親御さんを支援したいとも思います。 

シトリン欠損症のような希少疾患の子どもの育児は「なんとかなる」と言われても孤独に感じる事が多くあります。ありがたいことに他の子供たちと同じように成長できるかもしれませんが、同じ症状の子供を持つ親にしか理解できないような困難が私たちにはあります。だからこそこのようなコミュニティは、私たちが育児をするうえで少しでも孤独を感じないようにする大切な機能を持っていますまたこのコミュニティはこの疾患に精通する医師群が集まり、的確なアドバイスを受けることができる唯一のプラットフォームでもあります。私たちのサポートにより財団が医学的な進歩と共に活躍を続け、それにより患者や家族も人生のさまざまな局面で適切な対処ができるよう、知識を深めることができればと願っています。